東北大学、岩手大学、国際農林水産業研究センターの研究グループは、遺伝子組み換え技術によって、イネの光合成を増強させ、最大28%の収穫量増加に成功した。
窒素肥料の使用量は従来どおり。
光合成の機能改善により、窒素利用効率が向上し、収量量増加に結び付いた世界初の実例だという。
人類は1960年代まで食料危機のリスクを抱えていたが、いわゆる「緑の革命」により回避された。高収量品種の導入や化学肥料の大量投入などにより、食料生産の大幅な増産に成功した。
東南アジアに関しては、1950年と比較すると、コメの生産量は約4・5倍にまで増大した。その間、収穫面積は約1・8倍になった。
しかし、その代償として、窒素施肥の大量消費により環境汚染が問題となった。
能登ひかり(早場米)
研究グループは稲品種「能登ひかり」を親品種に、遺伝子組換え技術を用いて、光合成酵素ルビスコが約1・3倍量増強されたイネ(ルビスコ増強イネ)を作出した。
植物は光合成を行っている。光エネルギーを使い、水と二酸化炭素から炭水化物(ショ糖やデンプンなど)を合成している。
この化学反応の際、自身は変化せず、反応速度を速めているのがルビスコである。このような物質を「触媒」という。
国内で遺伝子組換え技術を用いて作出された穀物を野外で栽培するには、文部科学省と環境省からの承認が必要である。研究グループは、数年におよぶ生物多様性評価試験を行い審査を経た。
そして、2016年から2019年までの4年間、東北大学の「遺伝子組換え植物隔離ほ場」で栽培試験を行った。
その結果、親品種の能登ひかりと比較し、ルビスコ増強イネの玄米収量が17%から28%増加した。
詳細な解析の結果、ルビスコ増強イネでは、葉のルビスコ量とその活性が増加し、光合成速度の向上したことが観察された。
この光合成機能の改善が、組換えイネの収穫可能な籾(もみ)の割合を増やし、収穫量増加に結び付いたことがわかった。
同研究で使用したルビスコ増強イネは、遺伝子組換え技術を用いているため、すぐに農業現場で応用することはできない。
しかし、光合成の増強がイネの新品種の開発に応用できることは示された。
このような研究は、ぜひ、進めてほしいものである。